
この絵は6年前に描いた絵である。
我が山家に地続きする隣家の畑の土手に大きな柿の木がある。この地方では、たまご柿と呼ばれ古くからの農家の畑の端にはよく目にしたものだった。多分この柿の実だと思うのだが、子どもの頃には農家の人が渋抜きをして町に売りに来たことを覚えている。
小さくて固く甘みも少ないたまご柿の実は、現代の人には余り魅力的ではなく、冬が来て雪が降ってもまだ木の枝にしがみついて哀れを誘う景色である。
しかし、この「愛おしい柿の実」も寒の時季になると完全に熟して、私にとっては魅力的な果実になる。見た目はいかにも熟した柿色に変わり手触りも柔らかく、指でひと皮むいて口に運ぶならば、一気に5 6個は食べてしまう程だ。40年以上も前から隣家の許しを得て、冬の私のオヤツになってもう40年以上になるかと思う。
例年なら、寒の時季になって食べ頃を楽しみにしているのは私と野鳥であるが、今年は立春になっても野鳥は姿を見せていない。今冬のこの地方は雪の降る日が少ないということもあるが、柿の実を独り占めしてしまったことに、張り合いを失いどこか寂しさを感じている。
まもなく、窯の側のミツマタの花が咲いてほんとうの春の到来を告げ、私に春の窯の仕事を促して来る。「休息と思考」の冬は終わったのだと。